大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和42年(行ツ)11号 判決 1967年9月14日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人および同補助参加人代理人下飯坂常世、同海老原元彦、同広田寿徳、同竹内洋の上告理由第一点の第一(1)について。

論旨は、被上告人補助参加人らは本件「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」に該当しない、という。

しかし、本件は行政事件訴訟にして牧野買収計画の無効確認を求める事件であるから、当該牧野の売渡しを受けたと主張する被上告人「補助参加人」らは、本件訴訟によつて右買収計画の無効であることが確定されると売渡処分もまた違法とされる関係にあるので、行政事件訴訟法二二条一項にいう「訴訟の結果により権利を害される第三者」に該当するものと認めるべきである。

されば、原判決には所論の違法はなく、論旨は、叙上に反する独自の見解に立脚するにすぎないものであつて、採用の限りでない。

同第一点の第一(2)、第二及び第二点について。

論旨は、要するに、本件訴訟は訴の利益を欠く不適法なものであるとした原審の判断が民訴法一三九条に違反し、訴の利益の解釈を誤り、理由不備、理由齟齬の違法をおかしたものである、という。

しかし、訴の利益は、いわゆる職権調査事項に属し、当事者の主張の有無にかかわらず、裁判所が職権をもつて審理、判断しなければならないものであるから、被告がその欠缺を指摘するについても、行政事件訴訟法七条によつて適用される民訴法一三九条の制限に服さないと解すべきである。もつとも、前記「補助参加人」らが取得時効の抗弁を提出したのは、本件控訴の申立があつてから約一一年を経過した昭和四〇年六月二八日原審第三六回口頭弁論期日であること記録上明らかである。右のごとく本件訴訟が著しく遅延したことについては原審はその責任を免かれないとしても、所論のように、そのことの故をもつて右抗弁を採用して本件訴訟における訴の利益を否定した原審の判断自体を論難するのは、当らないといわなければならない。

また、行政処分が違法であることを理由として国家に対し賠償を請求するについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を受けなければならないものではないから、上告人の本件訴訟には被上告人委員会の不法行為を原因として、将来国家に対し賠償を求める含みがあるものであるとしても、ただそれだけでは、本件牧野の売渡しを受けた者が時効によつてその所有権を取得した後においても、なお、右牧野買収計画の無効確認を求める訴の利益を肯認することは許されないといわなければならない(昭和三六年四月二一日最高裁判所第二小法廷判決民集一五巻四号八五〇頁参照)。

なお、本件訴訟が訴の利益を欠く不適法なものであるとした原判示に所論の理由不備、理由齟齬の違法があるものとは認められない。

されば、論旨は、すべて、排斥を免かれない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例